「復讐よりも恐ろしい嫉妬」アレクサンドル・デュマ著『モンテ・クリスト伯』を読む【緒形圭子】
緒形圭子「視点が変わる読書」第23回 『モンテ・クリスト伯』アレクサンドル・デュマ
◾️映画『モンテ・クリスト伯』大ヒットの理由
アレクサンドル・デュマ・ペールが1844~46年に発表した小説『モンテ・クリスト伯』は時代と国を超えて読み継がれ、何度も映画化されている。それが何故今また映画化され、しかもフランス国内で940万人を動員する大ヒットとなったのだろうか。
監督の一人であるマチュー・デラポルトによれば、今、フランスの学校でデュマの作品を学ぶことはほとんどないという。世界的に古典文学というものは流行らなくなっていて、学校の教材で使われることがなくなっているのかもしれない。しかし、学校で教えないからといって、読まれていないわけではなく、今でもデュマの作品はフランス人にとって文学の入り口になっているのだそうだ。
もう一人の監督、アレクサンドル・ド・ラ・パトリエールによれば、『モンテ・クリスト伯』は冒険小説でありながら、恋愛小説でもあり、また悲劇でもスリラーでも風刺でもある。その天才的なジャンルの融合が素晴らしいと言う。

制作会社が動いて映画化のプロジェクトが始まったことを考えれば、『モンテ・クリスト伯』は今でも十分観客を引き付ける魅力があると判断されたわけなのだが、それは恐らくこの物語が「復讐譚」だからではないだろうか。
復讐とは、利益を侵害された個人や団体が、その報復として加害者に害悪を与えることを言う。
『モンテ・クリスト伯』の小説の主人公、エドモン・ダンテスは19歳という若さでマルセイユの商船「ファラオン号」の船長に抜擢された。しかも、巷で美人と評判のメルセデスとの結婚も決まっていた。
ところがメルセデスとの婚約披露の最中に、エルバ島に幽閉されているナポレオンの支持者だという嫌疑で逮捕され、裁判もなしに、政治犯が収容されるイフ城の牢獄に入れられ、死ぬまで出られなくされてしまう。
このような非道が行われたのは、嫉妬心の故だった。若いエドモンが自分をさしおいて船長に抜擢されたことに嫉妬したファラオン号の会計士ダングラールがメルセデスに恋焦がれ、婚約者であるエドモンに嫉妬しているフェルナンと共謀して、エドモンを死よりも辛い絶望の底へと突き落としたのだ。
奇跡的に監獄を脱出したエドモンはモンテ・クリスト伯に扮し、自分の人生を奪った相手に対し緻密にして壮大な復讐の罠を仕掛ける。
復讐譚は敵が明確だ。主人公のエドモンがダングラール、フェルナン、そしてもう一人、陰謀に加担した検事代理のヴィルフォールを容赦のない手段で追い詰め破綻させるのを見て、私たちは溜飲を下げる。この快感は昔も今も変わらない。
映画は178分という長丁場だが、3000ページにも及ぶ物語をその長さに凝縮し、最後まで飽きさせない緊張感を保っていた。
魅力の一つは風景だ。セーヌ=エ=マルヌ県のフェリエール城をはじめ、ペルピニャン近郊ドービリー城、モンペリエ近郊のレンガラン城といった名城でロケが行われ、歴史が刻まれた美しい風景は観客を一気に物語の世界へと誘ってくれる。
さらに、エドモン・ダンテスを演じたピエール・ニネの美麗なこと。彼は、2014年公開の『イヴ・サンローラン』で、サンローランを演じ、史上最年少でセザール賞主演男優賞を受賞している。19歳の若くて無垢な船員から40代のミステリアスな威厳に満ちた伯爵までを演じ切り、見事だった。
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